東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1094号 判決
一、本件取引の当時被控訴協会の理事山田稔が、控訴会社の代理人である社員富田幸蔵、斎藤道生等に対し名刺を交換して挨拶をしたこと、右取引の商談が右山田の同席する事務所で公然と行われ、書類の用紙及びそれに押された印のうちには被控訴協会の正規のものが使用されたこと、及び右山田が昭和二十九年四月十二日控訴会社に対して本件取引の一部の代金二万七千三十円(甲第二号証の二十七)を支払つたことは、いずれも控訴人主張のとおりであるが、右山田と富田等との挨拶は単に儀礼的な意味で行われたものに過ぎず本件取引については何等の話合もなされなかつたものであること、右山田は右取引について何等の相談も報告も受けておらずその商談の内容にも注意しておらなかつたものであること、及び右山田が右代金の一部を支払つたのは佐藤信衛に依頼されるままにこれを支払つたものでその書類等は見ていなかつたものであることは、いずれもさきに認定したとおりである。そしてこれらの事実に、次の二に認定するように、本件取引をすることは被控訴協会の定款に定められた目的の範囲外の行為であることその他さきに認定した諸事情を併せ考えると、本件において控訴人がその主張のように前記佐藤信衛、宮口視等において被控訴協会を代理する何等かの権限を有していたことやこの権限を有したものと信ずべき正当な事由のあつたことは、到底これを認められない。
二、被控訴協会が昭和二十二年一月二十三日設立された社団法人であること及び被控訴協会の目的は東京都における農地等の合理的利用を促進するため政府及び東京都の施策に協力するにあることは、当事者間に争がなく、被控訴協会の名称は当初財団法人東京都耕地協会と称したがその後これを現在のように変更し昭和二十八年九月二十二日その名称変更の登記を経由したことは控訴人の争わないところである。
そして成立に争のない乙第四、五号証によると、当初被控訴協会の定款には、その第四条に、同協会の目的を達するために行う事業として、(一)開拓に関する調査研究 (二)開墾適地の調査斡旋 (三)開墾、耕地整理、土地改良、農業用排水改良事業の指導助長 (四)入植者の農業経営の指導 (五)事業用資材、資金、家畜、種苗等の斡旋 (六)開拓関係技術者及び開拓指導者の養成 (七)成績優良な耕地整理、開墾事業者及び開拓功労者その他関係事業に功労顕著な者を表彰すること (八)その他本会の目的達成上必要な事業、と掲げられていたが、昭和二十四年六月以降右(五)が削除されたことが認められ、原審における被控訴協会代表者山田稔の供述により成立を認める乙第一号証によると、その後被控訴協会の名称が現在のように変更された後においても右と同趣旨が維持され、その定款第五条に、事業として (一)土地改良事業発展のため国及び都の施策に対する協力並びに意見の開陳 (二)会員相互の連絡及び質疑の応答 (三)土地改良の調査設計、その他土地改良区に必要な処理事項の受託 (四)土地改良事業に関する調査研究 (五)土地改良事業に関する研究会、講習会、講話会等の開催 (六)機関誌その他関係印刷物の配布 (七)土地改良事業功労者及び成績優良地区の表彰 (八)その他協会の目的達成に必要な事項、と掲げられていることが認められる。又本件取引は、当初昭和二十七年十一月頃から控訴会社との間に行われた同様の取引に引続き、昭和二十八年十月から行われたもので、これらの取引はいずれも控訴会社から資材を購入しこれを会員外の第三者に転売してその間に利益を挙げ、その利益は名義の如何はともかくとして現実に被控訴協会の運営資金の一部に繰入れられていたものであることは、さきに認定したところからこれを認め得るのであるが、原審における被控訴協会代表者山田稔本人尋問の結果によると、被控訴協会が定款に定めた事業の範囲から事業資材等の斡旋に関する条項を削除したのは、営利にわたる行為を固く禁止する趣旨で特にこれを削除したものであり、本件取引のような事例は当時他にはなかつたものであることが認められる。これらの事実によつて考えると、本件取引は、たとえそれが被控訴協会の運営資金を補うためにされたものであつても、被控訴協会の目的の範囲外のものであることが明かである。
(薄根 村木 山下)